北のフィールドノート

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2010年 03月 29日

縫道石山 YouTube動画とともに地名を考える

縫道石山                           大八木 昭



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下北郡川内町のだいこんの産地・野平(のだい)高原から見えるその山は、そこだけ異様に大地から突き出してきた岩石怪獣の塊のように見える。
そいつは、すでに息をしていないが、実は何百年か、じっと息をとめているだけにも見える。

縫道石山(ぬいどういしやま)626m、と呼ばれる岩山だ。

下北の山には似つかわしくない、ロッキー山脈かどこかからひとつかみだけ岩山をもってきて置いたという感じである。

岩崎某という登山家が東北百名山に選んだということからなのか他県ナンバーのマイクロバスで中高年の登山家女史客たちが来たりするようになった。
登山というにはおこがましいくらいの標高差にしてたった300メートルの登りだ。
最後の十数メートルだけは急勾配なのでロープにつかまりながらのぼりはするが、誰でも上れる岩山だ。
しかし、頂上は狭い。そして切り立っている。高所恐怖症の人はやめた方がよい。四つんばいになって下を覗くと、自分は高所恐怖症ではないか怖じ気づく。


 遠く、アラスカに生えるオオウラヒダイワタケという地衣類-岩や木に着くキクラゲの形状のコケのようなもの-がぽつんとここに生息している。

縫道石山という名は何に由来しているのか、とまじめに考えた人は周りにはいない。
下北の地名はアイヌ語由来の言葉などないと言い切った郷土史家もいたが、
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これはアイヌ語っぽいよと私は考えた。
考えても調べても分からないので、樺太アイヌ語研究の第一人者の村崎恭子先生に「ぬいどういし山」は、アイヌ語だとすれば、なんと解釈できますかとお尋ねした。(2009.10.31)
『これはヌ・エト・ウシnu--etu--usi でしょうね』

「岩山なんですよ、こんな」とスケッチを見せる。
「とがった石が近くにもある」

『とがった石があるところといえますが』

「usiはetuにかかるのですか」
『そう、とがった石があるところね』

「nu--usiとはならないのですか」
『そうね、usiはnuにはかからないわね、というよりnu は動詞でそれだけで「獲物の多い、豊かな」という意味よ』

「獲物は植物でもいいのですか」
『それはいいわ』

「イワタケという、日本では薬になる地衣類が生えているんですが」
『それはnuとよんでいいわ。アイヌは薬になる植物は絶体知っていたわよ』
『nu-etu-usiとしか考えられないわね』


『nuはそれだけで「獲物の多い、豊かな」という意味ですからその後の etu「とがった山」に直接続きます。だから、nu-etu でそのまま「食物豊かな尖り山」となり、それに usi が付くと、「~のところ」ということで、語法として正しいです。』

『nu-etuは発音するとヌイトになるのよ』

先生との話はここまでだった。
 実は縫道石山から7-8キロ離れたところに「山」のつかない縫道石という頂がある。
頂だけ岩山だ。そこにもイワタケは生えている。これも先生にはお話した。
 その後、盛岡藩の武士が下北半島を廻って地名と集落を記録したスケッチつづりの古文書を現代語訳した「北奥路程記」が手に入った。
その場所とおぼしきところには「濱ヌヒト石」と「ヌヒト石」という地名が記されていた。
濱ヌヒト石は縫道石山で、ヌヒト石は縫道石であろう。どちらも「石」と書き記してあり山とは書いていないということはウシ、イシという音、つまりアイヌ語のusiを和人が漢字の石と表したからだろう。
もちろんヒは旧仮名遣いだからヌイトウシを和人が漢字で表すとき縫道石と表したに違いないと考える。
 つまり、ヌヒト石は先生の解かれた nu-etu-usi で【食物豊かな尖り山のところ】という意味であろう。
その場合、はたして nu はイワタケだったのだろうか。
 
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2010.03.29記 (2010.04.01一部訂正)

by snowmelt | 2010-03-29 17:04 | アイヌ語地名 | Comments(1)
Commented by kimoto1 at 2011-12-30 13:37
大八木先生お久しぶりです。
縫道石山の名前については僕も大変興味を持っていました。おそらくアイヌ語かなと思っていましたが、おもしろい解釈ですね。この山たいへん奇妙で僕は好きですが、絶対のぼりません(高所なんとかです)。


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